知識を落とす
あなたは偽りを落とし
借りものの知識を落とし
自分の知恵のなかに
自分の理解のなかに入ってゆく用意ができています
ある日、ナロパは自分の弟子たちに囲まれて坐っていた。彼のまわりじゅうに、非常に古い、めったに見られない何千もの教典がばらまかれていた
突然彼は眠りに落ち、ヴィジョンを見た。それはあまりにも意味が深かったので夢と呼ぶにはふさわしくなかった
——それはヴィジョンだった。
彼は非常に年取った、醜い、見るからに恐ろしい女性、鬼婆を見た。彼女の醜さがあまりにもすさまじかったので、彼は自分の夢の中で震え始めた
彼女はたずねた
「ナロパ、お前はなにをやっている? 」
「私は学んでいるのだ」
「私は学んでいるのだ」
「なにを学んでいる?」
「哲学、宗教、認識論、言語学、論理学……」
「哲学、宗教、認識論、言語学、論理学……」
「それがわかるのか?」
「……そうだ、私はわかる」
「……そうだ、私はわかる」
その女性はもう一度たずねた
「お前はことばがわかるのか、それとも意味がわかるのか?」
彼女の眼は非常に深く見入る力をもっていたので、嘘をつくのは不可能だった……彼女の目を前にして、ナロパは自分が完全に裸なのを見透かされているのを感じた
彼は言った
「私はことばを理解します」
その女性は踊り始め、笑い始めた… すると、彼
女の醜さが変容した。微妙な美しさが彼女の存在から出て来始めた。
ナロパは考えた
「私は彼女をあれほど嬉しがらせたのだ。もう少し幸せにしてあげてもよいのではないか?」 そこで彼は言い添えた。
「はい、私は意味も理解します」
その女性は笑うのをやめた。踊るのをやめた。彼女はすすり泣き、泣き叫び始めた。すると彼女の醜さがすべて戻っていた———何千倍にもなって
ナロパはたずねた
「なぜなのです?」
その女性は言った
「お前のような偉大な学者が嘘をつかなかったので私は幸せだった。だがいま、お前が私に嘘をついたので、私は泣いている。お前が意味を理解していないのを私は知っているし、お前も知っている」
ヴィジョンは消えた———
そしてナロパは変容した
彼は大学を去った。生涯二度と再び彼は教典に触れなかった。
彼は理解した
……。
知恵の人、理解の人には新鮮さがある。神学者、知識の人とはまったくちがった香りを放つ生がある。
意味を理解する人は美しくなる
ことばだけを理解する人は醜くなる
そしてその女性は、知識を通して醜くなったナロパの内なる部分、彼自身の存在が映し出されたものにすぎなかった
ナロパは探究に入った
もう教典は役に立たない
いまや生きたマスターが必要だ