悲嘆にくれる母とマスタードの種
あなたの注意をあなたの内側にあってけっして死ぬことのないものを見る方に向けなさい。あなたにはいま、死んでいるもの、あるいは去ったものを手放す用意ができています。
それを呼び戻そうとすることを忘れなさい。そして、それが過ぎ去っていったことを個人的にとらえてはいけません。
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ある女性が仏陀のところに行く——。
自分の子どもが死んだので、彼女は悲嘆にくれている。しかも彼女は未亡人で、もう子どもをもつことはけっしてない。たったひとりの子どもが死んだのだ。それは彼女の愛のすべて、
彼女の心づかいのすべてだった……。
「町に行って、誰ひとり一度も死んだことのない家から、芥子種を少し貰ってきなさい」
そこで、その女性は町に駆け込み、一軒ごとに家を訪ねた。どこへ行っても彼らはこう言った。
「欲しいだけ芥子種をあ
げることはできるけど、その条件を満たすことはできない——私たちの家ではほんとうにたくさんの人が死んだからだ
よ」
よ」
何度も何度もそうなった。 だが、彼女は望みを捨てなかった。「もしかしたら……わかるわけないわ。死を知ったことのない家がどこかにあるかもしれない」 そうして彼女は一日中あらゆるところを訪ね歩いた。
夕方になると、彼女のなかに深い理解が湧き起こってきた。
「死は生の一部だ。それは起こる。それは個人的ななにかではない。私に起こった個人的な災難ではない」 その理解をもって、彼女は仏陀のところに行った。
彼はたずねた。 「芥子種はどこにある?」
彼女は笑った。彼の足もとにひれ伏して言った。
「私を入信させてください。けっして死ぬことのないものを知りたいのです。私の子どもが戻るようにとは望みません。たとえその子が私に与えられたとしても、また死ぬでしょうから。自分の内側で、けっして死ぬことのないものを知ることができるように、なにか教えてください」
THE WISDOM OF THE SANDS, Vol.1, pp.103-104